只野真葛『むかしばなし』より

いたちの執念

 玉川の百姓に、おもに川漁で暮らしを立てている兄弟がいた。
 弟のほうは外に養子に出て、兄のほうは妻を亡くして子二人を育てていたが、ふと病気になって寝ついてしまった。

 その病気には地鼠を食えばよいと教えた者がいて、兄は弟に、『取ってきてくれよ』と頼んだ。
 弟が請け合って出て行こうとする門口に、ちょうど大イタチが地鼠を獲って走ってきた。これは好都合と取り押さえ、兄に食べさせてやった。
 その翌日、弟が近所の葬式の手伝いを頼まれて出かけたところ、真っ昼間に例のイタチが現れて、いきなりかかとに喰いついた。蹴飛ばして、しばらく見張っていたところ、どこかへ行ってしまった。

 その晩から、兄の家の上がり口にイタチがうずくまって、人のいるほうを睨むようになった。その眼の気味悪いことといったら、たとえようもない。
 夜が更けて寝静まると枕元にやって来て、兄の髪の元結を咥えて引っぱる。そいつを手で払うと、子供たちのいるほうに行って、いきなり子供に喰いついた。
 翌朝見ると、子供二人とも咬まれて泣き叫び、ひどい状態だった。
 また夜になると上がり口に現れ、眠ると寄ってきて喰いつく。捕らえようとすると手に咬みついて、ほとんど咬みちぎられそうな大けがをした。

 やがて、子供たちが先立って死んだ。父親も半月ばかり苦しんだ末に死んだ。病気を治すためにしたことで、かえって三人が死んだのであった。
あやしい古典文学 No.255