山本序周 編『絵本故事談』巻之一「張叔高」より

老人の出る木

 中国湖南の桂陽の太守をつとめた張遺、字(あざな)は叔高という人がいる。彼は、もともと山間の地で農作を営んでいた。

 その田のほとりに大樹があって、樹齢何百年とも何千年とも知れない。根元の太さが十抱えほど、枝葉は四五反にあまる広さで、田に覆い被さって繁っている。根もあたり一面に蟠っているので、傍らに草も生えない。きわめて作物の害となる。
 叔高は、木こりを雇ってその木を伐らせた。
 幹に斧をおろすと、木は傷から大量の血を流した。驚いた木こりは、逃げ帰って叔高に告げた。
 叔高は激怒し、
「老樹は伐ると汗を出す。汗の色が血に似ているのだ。そんなことを怖がるやつがあるか」
と言って、自分で行って伐ることにした。

 叔高が斧をふるうと、やはり木はおびただしく血を流した。それに全く動じず伐っていくと、幹の中に空洞のところがあった。そこから身の丈四五尺の白髪の老人が出てきて、
「こら、叔高、叔高」
と呼ぶ。
 躊躇なく刀を抜いて、老人を斬り殺した。
 さらに老人が四五人、次々によろめき出てきた。周囲の人々は恐れて地に伏したが、叔高はひるむことなく、遂に木を伐り倒した。
 こうして彼の田は、豊かな実りを得たのである。
あやしい古典文学 No.341