菊岡沾凉『諸国里人談』巻之二「木葉天狗」より

木葉天狗

 駿河と遠江の境を流れる大井川で、天狗を見かけることがある。
 闇の晩、真夜中にいたって、ひそかに堤防の陰に隠れて見張っていると、形は鳶に似て、翼のさしわたしが二メートル近くもある大鳥のようなものが、川面に多数飛んできて、流れを上り下りする。どうやら魚を獲っているようだ。
 人の気配がするとたちまち飛び去る。

 これは俗に木ノ葉天狗という、通力を持たない天狗の類であろうか。
あやしい古典文学 No.464