岡村良通『寓意草』上巻より

苦い尻

 母方の従兄弟にあたる下田師古は、六七歳の幼時、人の頬や手足を舐めることを好んだ。家族がどんなに叱っても、この癖はやまなかった。
 ある時、修行者が尻まくりの姿で門前を行くのを見て、後ろからそっと近づいて、べろりと舐めた。
「この悪がきめ!」
と怒られ、逃げ惑って門内に戻ったが、その後、口が大きく腫れ上がって、十日あまりも病みついた。修行者の尻は、ひどく苦かったという。

 修行者の尻には、毒があるのだろうか。
あやしい古典文学 No.557