『わすれのこり』上「椎木寺の怪」より

椎木寺の怪

 谷中の三宝寺内に、椎木寺という日蓮宗の寺がある。
 この寺では昔から、四十歳くらいの夫婦が毎日来て、棚から膳碗を取り出して食事をする。食べ終わると、元どおりに片付けて帰る。
 かたわらに人がいても、ものを言うことはないそうだ。

 何代前の住職のときから来るのか、その始めを誰も知らない。
 境内に古くから棲んでいる狸だという話だが…。
あやしい古典文学 No.653