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林羅山『狐媚鈔』「驪山」より |
狐龍三年 |
中国、唐の都長安にほど近い驪山(りざん)のふもとに、かつて一匹の白狐が棲み、たびたび妖術を用いて周辺の村を悩ましたが、長年、人々はどうするすべもなかった。 唐の世の末、乾符年間のあるとき、狐は山の温泉につかってのんびりしていた。 すると、にわかに雲がおこり、霧がたちこめ、風が吹き荒れるなか、狐はたちまち白龍と化して、天に昇った。 その後は、白龍が時おり、驪山の辺りへ飛来することがあった。 龍が昇天して三年たとうとするころ、一人の老人が毎晩来て、山を仰いで泣き悲しんだ。 人々が不思議がって、わけを問うと、 「狐龍の運命を泣いているのです」と言う。 「あの龍になった狐のことか。どうしてあいつのことを泣くのか」とさらに問うと、 「狐が化した龍は、三年で死ぬのです。わたしは狐龍の子です。だから泣いています」と。 「そうなのか。だが、そもそもどうして狐が龍になったのかね」 「わが父は、西方より来る活力を源として生まれた特別な狐でした。全身あくまで白く、他の狐を遠ざけて驪山のふもとに千年棲みましたが、たまたま出逢った女の龍に惹かれて雌雄の交わりをなしたのを、天帝が知って、狐から龍に化さしめたのです。これは、人が道術を鍛錬した末に仙人となるのと同じです」 老人はこう言うと、あとかたなく消え失せた。 |
あやしい古典文学 No.888 |
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