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『片仮名本・因果物語』中「鳩来、御剣ヲ守居事付神前ノ刀ニテ、化物ヲ切事」より |
三年目の下女 |
香丸清兵衛は、下野国蜷川生まれの人である。十歳のころ、下女を一人つけて伯母のところへ預けられた。 ところが、その下女が伯母と気が合わず、もとの香丸家へ逃げ帰ってしまう。清兵衛の父は下女を教え諭して、また伯母のところへ戻す。これが四五度くり返された。 その後また逃げて、今度は行方知れずになった。 あるとき伯母が病みついて、 「妖しいものが来る。胸が苦しい」 と口走るようになった。病気による幻覚だろうと聞き流していたが、 「今、庭に来た。ほんとだ。幻ではない」 と真に迫って言うので、もしやと思って庭を調べた。何も居ない。 「青いものを着て来たぞ。もっとよく見てくれ」 そこで、庭にあるものを取り除けながら探していると、庭の隅の長持の下に青い布がはみ出ていた。その布が、慌てたように長持の下へと引き込まれていく。 長持を取り除けると、かの失踪した下女が、板のように平べったくなって隠れていた。 下女は行くところがなくて、家の裏手の大木のうろに籠もって三年過ごすうち、妖怪となったのである。 「憎いやつめ!」 と刀で斬りつけるも、なぜか斬れない。いよいよ腹が立ってむやみに斬りかかったが、いっこうに斬れない。困っているとき、 「こんな化け物は、神社に籠めた刀で斬るとよい」 と言う者があった。 それではと、八幡に籠めた刀を持ち出して斬ると、すっぱり斬れて首が落ちた。 妖怪下女は、殺されて今度は怨霊となり、かかわりのある人々を次々に取り殺した。 これを鎮めるため、ついに神に祀られて、今も祠が蜷川にある。 |
あやしい古典文学 No.1026 |
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