『本朝故事因縁集』巻之一「石上雷住」より

石上の火

 出雲国の野木庄の山上に、大石がある。
 天正十九年六月、その石の上に球形の火が現れ、周囲二三里をくまなく照らした。
 その火は、石が燃えるのではなく、また周囲の草木に燃え移ることもなく、ただ赤々と光り輝いていた。
 人々はこれを不思議がり、集まって神霊として拝した。火の中にぼんやりと竜の姿が見えるので、あえて近づこうとする者はなかった。
 ところが、或る人が来て、火を見て断言した。
「神霊なものか。これは天魔にちがいない」
 そして水を一桶ぶっかけたところ、火は太鼓のごとく鳴って跳躍し、近くの石に跳び移って、そこでまたもとのように光り輝いた。

 一月ほど過ぎたある日、空がいつになくどんより曇ると、火はにわかに虚空を上昇した。
 そのまま雲に入って雷電となって、閃光を放ち天地を轟かし、はなはだしく威をふるった。
あやしい古典文学 No.1046