神墨梅雪『尾張霊異記』初編中巻より

瘤平

 尾張国春日井郡田幡村に、平四郎という、いたって正直な性質の百姓がいた。
 この平四郎の耳の後ろに、いつかしら瘤ができて、徐々に大きくなり、しまいには頭と等しい大きさにまで育った。
 見た目には、頭が二つ並んだかのような異様さだった。常にかぶっている手拭は、頭二つ分だから、ふんどしと同じくらいの長さがあった。
 「田幡の瘤平」と呼ばれて、周辺で知らない者はなかったが、年老いて、瘤が腐って死んだ。

 瘤平の生前のこと。
 あるとき日雇い仕事に行って、昼寝をしていると、仕事仲間の者が戯れに筆をとって、瘤に目鼻口などを描いたそうだ。
あやしい古典文学 No.1275