岡村良通『寓意草』下巻より

寒い夜

 たいそう寒い夜、『今夜は犬鍋でも食おう』と思って罠を仕掛けた。しかし、宵を過ぎても掛からないので、待ちくたびれて寝床に入った。
 妻に乗りかかって、耳も少し熱くなり、鼻息がやや荒くなったころ、けたたましい吠え声がした。
 引きとどめるのを振り切って走って行ってみると、犬は、罠の縄が伸びたために縊れ死にせず、苦しんで暴れていた。
 刀で刺し殺したが、夜もずいぶん更けたから、明日皮を剥ごうと、寝巻に血がついているのも構わず、寒さのあまり手もろくに洗わずに、戻って布団にもぐりこんだ。
 また妻を抱き寄せたけれども、「ああ、汚い」と背を向けられ、引っ張っても向き直ってくれず、高まった情欲のやり場がなくて、ただひとり悶々とした。
あやしい古典文学 No.1624