津村淙庵『譚海』巻之十二より

いさぎ

 武州秩父のあたりに、「いさぎ」というものがある。
 四国の「犬神」のようなもので、「いさぎ」をもつ血筋の者が、他人の家にある物を何であれ欲しいと思うと、やがて「いさぎ」がその家に憑いて、なにかと煩わしたりする。
 酒を造る家に「いさぎ」が憑いた場合、例えば仕込み中の酒米に大量の死んだ鼠がわいて、米に混じり溢れたりして、汚らわしいこと言いようがないとのことだ。

 これは、秩父から来た女が語った話である。
あやしい古典文学 No.1637