中村満重『続向燈吐話』巻之一「榎木の精化の事」より

榎木の精

 最近のことらしい。

 高木主水正殿の渋谷口屋敷の庭に、中ほどから二股に分かれた榎木の古木がある。
 茶坊主が一人、夕暮れに庭に出て、終日勤仕して疲れた身を休めていたところ、白髪の老人が二人、榎木の二股のところに坐っているのが目に入った。
 二人はなにか四角い形のものを、木の枝葉に蜘蛛の巣のようにかけて、しみじみ眺めていた。
 茶坊主は急いで走り入って、屋敷の若い侍に知らせた。
 そこらにいた四五人が来て、障子の隙間から覗くと、老人たちは徐々に腰のあたりから消えて、まもなく跡形もなくなった。
「榎木の精霊ではないか」
と、見た者は語った。
あやしい古典文学 No.1987