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| 宮負定雄『奇談雑史』巻九「手之子大明神の事」より |
手之子大明神 |
| 出羽国米沢領に、手之子村(てのこむら)というところがある。 むかし、その村に夫婦二人暮らしの者がいたが、領主の命令で、夫のほうは遠方の地へ労役に行くことになった。 夫は妻を独り家に遺すことが気がかりで、『もしや密夫によって犯されるのではないか』と思い、親族のうちの七十余歳の老爺に密夫を防いでくれるよう頼んで出かけていった。 老爺は夫の頼みを堅く守り、毎晩その妻の女のかたわらに枕を並べて臥した。しかも最初の夜から、老爺は女の陰部に手を延ばして、ぴったり蓋をして寝た。 女は、『この爺さんがわたしを犯すつもりでも、七十に余る年寄りだから、し遂げることはできないだろう。さて、どうするのか』と思っていたが、結局それ以上何もせず、毎晩陰部に蓋をするばかりだった。 そうして月日を過ごすうち、女の腹が大きくなって、妊娠したみたいになった。女が密かに医者に診てもらったところ、 「これは病気ではない。まぎれもなく妊娠である」 とのこと。 そうこうするうち臨月になった。 ちょうどその頃、夫が労役を終えて家に帰ってきた。見れば妻は孕んで、今にも子を産もうかという有様だ。 夫は怒って妻と老爺を責め罵ったが、妻は、 「ずっと身を慎んでいました。密夫と寝たりしていません」 と答え、老爺は、 「わしはおまえに頼まれたゆえ、密夫に犯されない用心のため、毎晩妻女のかたわらに寝て、妻女の陰部に終夜蓋をし続けてきたぞ」 と答えた。 男が不審に思ううち、女が産気づいたので、人々が集まってきた。 まもなく出産したが、産んだものを取り上げてみるに、赤子ではなく、人の手だった。その後も次々に手を産み出して、つごう人の手が六つになった。目鼻も口もないから泣きはしないけれども、手はみな活きて動いた。 「これは毎晩、老爺が陰部に手を当てて蓋をしたので、その手に感応して、自然に手を孕んだのだろう」 人々はそう言って、産まれた手を神に祀ることとし、土中に納め、祠を建て、「手之子大明神」と称した。また、その村は「手之子村」と呼ばれるようになった。 むかし中国で、夏の暑さに苦しんで鉄の柱を抱いた女が、自然に孕んで鉄丸を産んだ例もあるから、手を産んだのにも道理があるといえよう。 |
| あやしい古典文学 No.1997 |
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