海峡を歩いて渡る

 関門海底トンネルは3本あって、うち2本は鉄道用(JRの在来線と新幹線)、もう1本が自動車道だが、その自動車道には人道が併設されている。
 このあいだ、門司から下関へと、その人道を歩くことにした。

 右の写真は、門司側から撮った海峡の夕景である。
 上方の橋は、海底自動車道の車線数が需要を満たさなくなったために架けられたもので、こういう圧迫感のある築造物は嫌いだけれども、世の中が私の都合に合わせてくれるわけもないので、仕方がない。

 撮影地点のすぐそばに、人道の入口がある。エレベータで垂直に降りて海底を渡り、むこうでまた垂直に昇る仕組みになっている。

 おもむろに入口に向かうと、いましもエレベータから大きなバイクを押した男が現れた。バイク旅行中と見えたが、ずいぶん疲れた様子である。9月に入ったとはいっても残暑の厳しい一日だったから、バイク旅行も体力を消耗するのだろうと思った。
 ところがエレベータの前に立つと、上がってきたのは、またもやバイクを押した男であった。汗の玉を浮かべ、呼吸が荒い。なんだか変な気がした。

 左の写真がトンネル内。だらだら坂を下って、中間点から今度は登っていく。

 写真の路上いちばん奥の黒い点が、じつはバイクを押してくるオヤジである。
 私は下り、彼は登って、黒い点はずんずん大きくなった。すれちがうときオヤジは、汗に濡れた赤黒い顔でうらめしそうに見上げたが、私はその色気のない視線を無視した。
 バイクや自転車は、人道内ではひたすら押して行かなければならないのである。
 このオヤジ以外、トンネル内ではだれにも出会わなかった。

 人道の長さは750メートルだから、陸上トラック2周に満たない。しかし、その単調さのため、実際以上に遠く感じられる。
 やや蒸し暑くて、すぐ下(上?)の自動車道の音がゴンゴンと聞こえるあたり、海底トンネルというより、都会の歩行者用地下道の長いやつと変わらない。

 下関側の出入口には、賽銭箱みたいなのが置かれていて、自転車・バイクは20円入れることになっている。
 番人はいないから、ごまかそうと思えばできる。