地下鉄ざんまい行き止まり

 新しいデジカメを買ったので、ためし撮りに出かけることにした。
 自分で言うのもなんだが、こういうのは新しい刀を手に入れて辻斬りに出かけるようなもので、あまり高尚な行動ではない。

 さて出かけてみると、当日は「ノーマイカーフリーチケット」が使える日だった。
 このチケットは600円で、大阪市交通局の乗り物(地下鉄とバス、ニュートラムという中途半端な電車)が1日乗り放題という、市内一円を遊園地だと思えば、なかなか嬉しいサービスといえよう。
 以前から、1度このチケットを使って地下鉄に乗りまくってみようと目論んでいた私は、これはいい機会とばかり、さっそく実行に及んだ。

 つまらなかった。
 地上を走る列車なら、のんびりボンヤリと何時間でも平気なのに、地下鉄なんて、時とともに閉塞感がつのるばかりだ。当たり前だが、景色なんて見えないから、ほかの客の顔を眺めているより仕方がない。
 頭痛がしてきた。

 結局、地下鉄ざんまいは半日もたず、松屋町という駅で下車したところで取りやめにした。

 松屋町のことを、大阪人は「まっちゃまち」という。けれど根っからの大阪人でない私は、「まっちゃまち」が気恥ずかしくて「まつやまち」と呼んでいる。
 ともあれ、ここは人形と結納用品なんかの町である。「人形の熊野」「人形の増村」「人形のモリシゲ」などなど、ずらりと二、三百メートル続いている。左の写真は「福板屋」の看板で、私にはかなりウケた。
 通りに人の姿はごくまばらで、季節がらクリスマス用品とともに正月の凧や羽子板が並んでいるのを、ただ眺め歩いた。
 こんなときはいつも、自分が薄っぺらい影になってしまうような気がしてくる。それはけっして、いやな気持ちではないのだが……。

 じつにひっそりと、自販機の店があった。
 18歳未満出入り禁止の、行き止まりであった。