宇宙の出島

 「宇宙の出島」は石川県羽咋市にある。
 能登一ノ宮の気多大社や、千里浜と呼ばれる海岸線で知られる羽咋市は、「UFOに会えるまち」としても売り出そうとしている。その発端は、何か町おこしのネタはないかと捜していたら、古文書にちょこっとそれらしいことが書かれていたので、「よし、UFOでいこう」と決めたという、随分いい加減な話らしい。
 その関係で、羽咋には宇宙科学博物館「コスモアイル羽咋」が1996年にオープンしている。「コスモアイル」を「宇宙の出島」と訳す。

 コスモアイルへはJR羽咋駅から徒歩で行けるが、私は最初に気多大社に参拝するためにタクシーに乗った。コスモアイルにも立ち寄るといったら、運転手さんはなんだか嬉しそうだった。建設費に五十数億かかったが維持費が大変なこと、定期観光バスのコースに入れてもらうように働きかけていることなどを話してくれた。

 コスモアイルには宇宙人のミイラがあると、かつて誰かに聞いたことがあった。世間には「人魚のミイラ」やら「鬼の骸骨(の写真)」やらを展示しているところもあるので、そうなのかと思っていた。実際に行ってみて、デマだと分かった。
 デマのもとは左の写真のやつだろう。
 これはUFOマニアには周知のロズウェル事件(合衆国ニューメキシコ州ロズウェルで、墜落したUFOと乗員の死体が回収され、死体は解剖されたという噂)をもとに作られた、宇宙人の身体模型である。
 この宇宙人は、未整理のパネルなんかが雑然と置かれた片隅に、半ば隠れるような状態で置かれていた。もとは展示ケースに横たわって目立つ場所にいたらしい。空っぽの展示ケースを別の場所で発見した。
 もしかして、博物館の路線変更で冷遇されるようになったのか。

 コスモアイルの展示の中心は宇宙船や探査機材で、レプリカだけでなく、次のような本物がある。
 実際に使用されたものの補欠だった旧ソ連のモルニア1号通信衛星、同じく旧ソ連のルナ24号月面着陸船、実験用試作機だったNASAルナ/マーズローバー(火星・月面走行車)。
 そして本物中の本物が、左のヴォストーク帰還用宇宙カプセル。表面は大気との摩擦で焼けて赤茶けている。発ガン物質まみれだから触るな、と注意書きがある。
 こんなタコツボみたいなものに乗って、宇宙空間から大気圏に突っ込んできたのだ。
 それだけじゃない。高度6000メートルまで来ると、宇宙飛行士はアラヨッ!とばかりにカプセルから飛び出す。そのまま地表に向かって墜落かと思いきや、ほどよいところでパラシュートが開き、無事に降下したのであった。ちなみにタコツボのほうも別途パラシュートで降下して回収されたらしい。

 博物館を出るとき、ちょうど観光バスの団体が入ってきた。団体といっても十人あまりだが、館員総出といった感じで出迎えていた。
 タクシーの運転手さんが話したようにコスモアイルの維持運営は大変なのだろうが、興味深い博物館なので、長く続いてほしい。プラネタリウムを見なかったので、私もまた来るかもしれない。

 羽咋には「UFOラーメン」というのがあって、宇宙人に見立てたタコとUFOに見立てたホタテが入っているとのこと。けっして美味くはないが、話の種に食べるようにと言われていた。しかし時間が早かったのか、開いている食堂も見つからなかった。仕方がないので、ラーメンは次の機会ということにし、駅の売店で「UFOパン」を買った。
 袋の中身は普通の円形のパンで、タコがあんこに入っていたりはしなかった。