根岸鎮衛『耳袋』巻の七「夢中鼠を呑む事」より

旦那の夢

 文化三年の夏のことという。

 番長あたりに住まいする布施金蔵という旦那が、ある日の昼、足腰を小僧に揉ませてうとうと眠り、夢を見た。
 魂が、にわかに口から出てきたのである。大いに驚いて、つかみ捕らえて口に押し込み、呑み込んだところ、喉を掻きむしられるようで、苦しさのあまり大声をあげたら目が覚めた。

 下女などが駆けつけて騒ぎになったが、湯を貰って呑んでようやく落ち着いた。妻が、
「いったいどうしたのですか」
と尋ねると、旦那は、
「かくかくしかじかの夢を見てたいへん苦しかったのだ」と説明し、「それにしても、小僧のやつ、何をしていたのだ」と怒った。

 見ると、小僧は近くでべそをかいていた。そして、
「人から南京ネズミを貰ってかわいがっておりました。腰を揉むうち旦那が眠ってしまわれたので、ネズミを放して遊んでいたところ、枕元にネズミが行ったとき、いきなり旦那がつかまえて呑み込んでしまわれました。それで泣いているんです」
と言ったのだった。
あやしい古典文学 No.2