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『今昔物語集』巻第二十九「明法博士義澄、強盗に殺さるる語」より |
もどってきた強盗 |
大学寮で律令と経書学を教授する清原義澄という人がいた。 その学識は当代に並ぶ者なく、昔の博士たちにも決して劣るものではなかった。年齢は七十歳をこえ、世間に重んじられていたが、家はきわめて貧しくて、なにかと不如意な暮らしをしていた。 その義澄の家を強盗団が襲った。 義澄はうまく板敷の下に這い込んだので見つからずにすんが、家の中は好き放題に荒らされた。強盗どもは、少しでも金目のものは盗り、がらくたはたたき壊し、踏みつぶした揚句、どやどやと出ていったのである。 義澄は板敷の下から這い出て、強盗どもが出ていったばかりの門に走った。そして、 「やいやい、おのれら、人相はみんな見届けたぞ。検非違使に言いつけて片端から捕まえてもらうから、覚悟しろ」 と、腹立ちにまかせて、門をドンドン叩きながら喚いた。 「親分、あんなこと言ってますよ」 「なめた野郎だ。ぶち殺せ」 というわけで、強盗どもはどやどや引き返してきた。 義澄は、アレマア!と驚いて、また板敷の下に急いだが、慌てて頭をぶつけたりして入りきらないでいるうちに見つかり、惨殺された。 強盗どもはそのまま立ち去って、事件はそれきりになってしまった。 義澄は、『学才は並外れてすぐれていたけれど、まるで臨機応変の対処を知らない者で、こんな子供じみた行いによって命を落とした』と、話を聞く人ごとに冷たくけなされたのである。 |
あやしい古典文学 No.16 |
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