中川延良『楽郊紀聞』巻五より

人魂 居すわる

 昔、古川権右衛門の家で、ある年のお盆に、死んだ祖母の人魂がやってきて、先祖の霊を迎える魂棚の上に座りこんだ。

 人魂とはいっても、まるで生前そのままの姿かたちで、ただし、ものは言わず、物も食わなかった。みな驚き怪しんだが、ただ座っているだけで、ほかに何のこともない。
 十六日になって魂棚を片づけようとしたが動かないので、しまいに、挟箱などの上に運び上げて座らせた。その後、挟箱が入用の節には、またほかの物の上に移すなどした。

 家の者も慣れてしまって、まるで怪しく思わなくなったが、年月がたつにつれ次第に影が薄くなり、あるかなきかの影法師のごとくなった末に、消え失せたという。
あやしい古典文学 No.21