『古今著聞集』巻第十二「弓取の法師が臆病の事」より

臆病が命取り

 ある家に強盗の一団が押し入った。
 一味は、見張りとして、ある法師を門の下に配置していた。

 秋の末のことで、門の傍らに柿の木があり、弓に矢をつがえて立っている法師の頭上に熟しきった柿が落ちて、べちゃっと潰れてさんざんに飛び散った。
 熟柿があたってひやびやとする頭を手でさわった法師は、ぬるぬると濡れているのを知って動転し、『矢で射られてしまった』と思いこんだ。

 すっかり臆して、そばにいた仲間に、
「やられた。もうアカン。この深手では、とても逃げ延びられそうにない。ひと思いに、この首をうってくれ」
 仲間が、
「どこをやられた」
と聞くと、
「頭を射られた」
 仲間の者が触るとぬるぬるしていて、手に赤いものがついたので、なるほど血だ、と思って、
「それでも、たいした怪我ではあるまい。なんとか連れて逃げてやるから」
と、肩を貸して行こうとしたが、
「いやいや、もう助からん。とにかく早く首を切ってくれ」
と、頻りに言い張る。
 やむをえず、仲間の者は法師の首を切ってしまった。

 その首を包んで、山和の国の法師の家を訪ね、しかじかの事情でこうなったと説明して渡したところ、妻子は泣き悲しみつつ首を見たが、どこにも矢の跡がない。
「うちの人は、胴に傷を負ったのですか」
と問うので、仲間の者は、
「いや、そうじゃない。この頭のことばかり言っていたぞ」
と応えた。

 妻子は、乾いた熟柿がこびりついている頭を眺めながら、いよいよ悲しんだけれども、いまさら、どうにもならないのであった。
あやしい古典文学 No.22