中川延良『楽郊紀聞』巻五より

鶏塚

 渡嶋卯介の家に語り伝える怪談がある。

 あるとき飼っている鶏が、二三夜続けて宵に鳴いた。主人は忌み嫌って、鶏を夷崎の海に沈めてしまった。
 子供たちが見ていて、あとですくい上げてやったけれども、死んでしまったので、海岸寺の裏門の辺りに置いて帰った。

 その夜、海岸寺の住職は夢を見た。
 赤い冠をかぶって黄色い衣を身につけた者が、ヒョイヒョイ歩いてきて、言うことには、
「わたしは渡嶋の家に飼われていた者だ。このごろ、家の飼い猫が家人を害そうとたくらんでいるのを知ったので、宵ごとに鳴いて警告してやったんだが、不吉だというんで、海に沈められてしまった。バカを見たもんだ。
 ところで、明日は渡嶋の家の忌日なんで、和尚はきっと呼ばれるだろう。そこで頼みなんだが、猫のことを知らせて、気をつけるように言ってもらいたいんだ」

 はたして翌朝、和尚は渡嶋に招かれた。さっそく行ってみたところ、特に変わった様子もない。
 読経が終わって斎の膳が出され、家内一同も膳に向かうにおよんで、赤い猫が走ってきて、その家の女の子の膳の上を飛び越えた。
 和尚はそれを見て言った。
「その料理、あらためられるがよい」
 調べてみると、吸い物の中に小さい青蛙が1匹入っており、それを犬に食わせてみたところ、頓死した。
 そこで和尚が夢に見たことを物語ったので、猫は殺されてしまった。

 鶏は主人に忠義であったというので、海岸寺の境内に埋葬し、鶏塚として今も残っている。
あやしい古典文学 No.23