三坂春編『老媼茶話』巻之壱「崔広宗」より

首がなくてもダイジョウブ

 中国の開元年間のこと、清河の崔広宗という者が、法を犯して処刑された。
 首を刎ねられ、獄門にかけられたのだが、首から下は死んでいなかったので、家人が担いで家に連れ帰った。

 首のない崔広宗は、腹が減ると地面に「飢」という文字を指で書く。すると家人が食物をすりつぶして、首を刎ねられたあとの穴に入れる。腹がいっぱいになると「止」という文字を書く。
 家人に咎めるべきことがあれば、その次第を書いて戒めた。首がないのでしゃべれないだけである。
 三四年過ぎて、男児を一人もうけた。

 ある日、地面にこう書いた。
「明日、必ず死ぬであろう。葬礼の用意をせよ」
 はたして翌日、死んだのである。
あやしい古典文学 No.34