『諸国百物語』巻之三「ばけ物に骨を抜かれし人の事」より

骨抜き

 京都七条河原の墓地には化け物がいると言い伝えられていて、若者たちが集まった際に、夜中にたった一人で行けるかどうか賭けをした。

 真夜中、一人の若者がその墓地に行って、杭を打ち、証拠の札をつけて帰ろうとしたときだ。
 歳のころ八十くらいの老人で、身の丈二メートル半、すすけた顔に歯を二つ剥き出し、眼は掌に一つある化け物が現れて、わっとばかりに襲いかかってきた。
 若者は肝をつぶし、無我夢中で近くの寺に逃げ込んで、かくまってくれと頼みこんだ。

 僧が若者を長持に隠したところに、化け物がやって来た。
 つくづく見回しても見当たらず、あきらめたような気配だった。
 しかし一方で、例の長持のあたりからは犬が骨をしゃぶるような音がする。それとともに呻き声が聞こえたが、僧はあまりの恐ろしさに這いつくばっていて、何とも知れなかった。

 やがて化け物が立ち去ったので、長持から出してやろうとふたを開けると、若者は骨を抜かれて皮ばかりになっていた。
あやしい古典文学 No.37