『諸国百物語』巻之一「尼が崎伝左衛門湯治してばけ物にあひし事」より

有馬の女

 摂津の国の尼崎に、伝左衛門という人がいた。
 湯治に行った有馬温泉で、のんびり湯につかっている時、どこからともなく若いきれいな女が現れて、
「わたしも湯に入れてくださいな」
と言う。
 相手が女だから、伝左衛門も許していっしょに入っていた。

 そのうち女が、
「お背中を流しましょう」
と言うので、流してもらった。いかにも心地よい。
 うとうと眠りこんでしまうようないい気持ちでいるうち、いつのまにか背中の肉が全部こすり落とされ、骨ばかりにされて、女は消え失せていた。

 こんなことがあるので、温泉には女の化け物がいると、昔から言い伝えているのだ。
あやしい古典文学 No.40