『古今著聞集』巻第二十「伊予国矢野保の黒島の鼠海底に巣食ふ事」より

大漁

 鎌倉時代の安貞年間のことだ。

 伊予の国の矢野保の人里から数キロ離れた海上に、黒島という島がある。
 土地の漁師に、かつらはざまの大工という者がいて、ある夜、網を打とうと、魚の寄っていそうな場所をさがしていた。
 魚がいるところは、夜には光って見えるものである。黒島の海岸を見ると、磯ごとに光りに光っているではないか。
 喜んで網をおろして引くと、魚は全然なくて、おびただしい数の鼠が網にかかっていた。
 鼠たちは引き上げられると、みな散り散りに逃げ去った。大工はただ呆れて見まもるばかりだった。

 じつに不思議なことである。
 そもそも黒島には鼠が満ちあふれていて、作物もみな喰ってしまうので、今日にいたるまで耕作ができないのだそうだ。
 それにしても、陸が鼠だらけというのはわかるが、海の底まで鼠がいるなんて、まったく不思議だ。
あやしい古典文学 No.47