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大田南畝『半日閑話』巻十五「信州浅間嶽下奇談」より |
思わぬ再会 |
信州の浅間山のふもとの村で、ある百姓が井戸を掘った。 六七メートル余も掘ったが水は出ず、かわりに屋根瓦が二三枚出てきた。『こんな深いところから瓦が出るはずはないが』と思ってさらに掘り下げると、屋根に掘り当たった。 その屋根を崩してみると、下に空間があって、居間のようだ。暗くてほとんど見えないが、内部に人間らしき者がいる。 松明で照らしてよく見ると、歳のころ五六十の人が二人いた。 いったい何者か?と問うと、二人は、 「もう何年前のことかわからない。浅間の山の噴火で土蔵の家が山崩れに埋まり、閉じ込められてしまったのだ。六人いたうちの四人は、横穴を掘ってなんとか出ようとしたが失敗し、死んでしまった。残ったわれわれ二人は腹を決めた。蔵に積んである米三千俵を食いつくし、酒三千樽を飲み干して、その上で天命を待つことにしようと。それが今日、こうして皆さんに会えたのは、まことに生涯の悦びというものだ」 年月を数えるに、噴火は三十三年前のことである。当時を知る村人を呼んで来ると、 「やあやあ、これは久しぶり」 「おやまあ、ご無沙汰しております」 などと言葉を交わす。 『何屋のだれそれがよみがえった』と、村はたちまち大騒ぎになった。 皆は、 「さあ、すぐに上がってきて、代官所に報告を……」 と促したが、地中の二人は、こう応えた。 「長年こんなところに暮らしてきたので、すぐに上がると風に当たって死んでしまうかもしれない。少しずつ天を見、徐々に上がろうと思う」 そこで今は、まず穴を大きくして日が入るようにし、地上の食物を供給している状態だという。 このこと、もっぱらの噂である。 二人は以前、よほどの資産家だったらしい。 |
あやしい古典文学 No.50 |
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