上田秋成『膽大小心録』より

狂乱三兄妹

 河内の国の山村に、母親と、男子ふたり、女子ひとりの、木こりの一家が住んでいた。子供たちは母親に十分孝行していた。

 ある日のこと、村の林の古木を伐ったが、翌日兄が発狂して、母親を斧で打ち殺した。
 これを見た弟が喜んで、死骸をずたずたにすると、娘もまた俎板を持ちだし、包丁で切りきざんだ。
 三人は母親を残らず喰って、血の一滴も残さなかった。

 彼らは大阪の牢獄につながれ、十二年を経て死んだ。狂気による行状で罪はないとされ、罪名はつけられなかった。
あやしい古典文学 No.57