浅井了意『狗張子』巻之二「死して二人となる」より

ダブル又三郎

 小田原城の近郊に、北条家の武士と百姓たちが住む村があった。

 北条早雲の時代のこと、西岡又三郎という中間(ちゅうげん)が、この村で病死した。
 暗くなってから野原に埋めるつもりで、傍輩が集まって日暮れを待っているところに、見慣れぬ男がやって来て、人々には会釈もせず、死人の前に坐ると、声を限りに泣き喚いた。
 その様子の哀れさに、きっと近しい親類か親しい友なのだろうと思って見ていると、又三郎の屍が突然むっくと起き上がった。
 すると泣いていた男も立ち上がって、死人と掴み合い、殴り合いになった。互いにものも言わず、ドタンバタンの大立ち回りである。
 集まっていた人々は仰天したが、手のつけようがないので、外に逃げ出して家の戸を閉ざしてしまった。

 閉じこめられた二人は、中で格闘を続けた。日が暮れるころにやっと静かになったから、戸を開けて覗いてみると、二人はひとつ枕をして、並んで横になっていた。
 なんと、この二人、背の高さも姿かたちも、顔の有様から鬚の生えかた、さらに着ている衣服にいたるまで、少しの違いもない。ふだん親しくしていた傍輩も、いずれが西岡又三郎か、見分けることができなかった。

 結局、一つの棺に二人を入れて、塚を築いて埋めたのであった。
あやしい古典文学 No.61