松浦静山『甲子夜話』巻之十八より

異類の子

 わが領内、志佐村松山田というところの農夫の娘が妊娠したが、相手の男はわからなかった。
 ひどい難産となったので、両親は『これではとても』と思って、途中で産婆を断り、牛の子を産ませるのが上手な文蔵という者に助けを求めた。

 文蔵の働きで子は生まれた。
 ところが娘は、産んだ子を人に見せるつもりはなく、何と頼んだのか知らないが、とにかく文蔵は、子が出るとすぐに家の外に捨ててしまった。
 外では何かが待っていたらしい。すぐに子を拾って、すさまじく草木の鳴る音とともに、山中に走り入った気配があった。
 何だったのだろう。山神なのかもしれない。

 娘は妊娠した当初から、産後に子を人に見せないことばかり考えていたそうだ。また、時々その家の周辺に怪しいものの来たことがあったという。
 文蔵も、生まれた子のことをまったく話そうとしなかったので、今にいたっても事情を知る人はいない。

 思うに、ウワバミが人と交わったのだろうか。または昔から話にあるように、わが国の河童や外国の猿猴のごとき異類が、好男子に化して女を犯したのだろうか。
あやしい古典文学 No.64