三坂春編『老媼茶話』巻之六「血気の勇」より

夢の恨みを晴らしたい

 中国に、やたら勇を誇る血の気の多い男がいた。

 ある夜、何者かに唾を吐きかけられ、さんざんに罵られる夢を見た。目が覚めてから、口惜しくてたまらない。
 『夢の相手に似たやつがいたら、そいつを打ち殺して、夢の恥辱を晴らそう』と思い、眼をいからし、拳を握りしめて、明け方から夕暮れまで町中を歩き回ったけれども、似た者に出会うことはできなかった。

 やむをえず帰宅したが、いっこうに気がおさまらない。
 ついに、憤懣のあまり自分の首を刎ねて死んだという。
あやしい古典文学 No.65