松浦静山『甲子夜話』巻之八十より

カエルの念力

 ヒキガエルは「気」で物を惹きつける。

 私の主治医の文石は越前の生まれで、彼の故郷では、村じゅうの家が蚕を飼っていた。
 文石が蚕を観察していると、飼箱の中から蚕が跳り出ることが何度もあるので、不思議に思って農婦に告げると、
「ヒキガエルのしわざだよ」
と言う。
 辺りの草の中を捜すと、はたして大きなヒキガエルが見つかったそうだ。
 蚕は跳躍するものではない。ヒキガエルが「気」をもって惹きつけたために、自ら躍り出たのである。

 このことをある寺の住職に話したところ、住職もこんなことを言った。
「わが寺の堂の軒下に蜂の巣があります。ある日、巣から蜂の子が自ら出て落ちていくので、不審に思って下を調べると、床下にヒキガエルがいました」
 これも、蜂の子を呑もうとして、「気」をもって惹いたのである。
あやしい古典文学 No.66