橘南谿『西遊記続編』巻之三「鼠島」より

鼠島

 肥後と天草の島々との間の海に、小さい島がある。

 どういうわけかこの島には、昔から鼠がおびただしく棲んでいるそうだ。もともと小さい島で、人は住んでおらず、鼠ばかりだという。
 そのため、この海を通う船では、三味線をひくことを船頭がかたく禁止している。三味線をひくと必ず大きな波風が起こって、船が危ないのだ。

 三味線は猫の皮を張っているから鼠が嫌うというわけだが、都のほうでは、最近の安い三味線は犬の皮を張っている。
 この島の鼠は、昔のことしか知らないらしい。

 隠岐の国の北にある竹島には猫ばかり多くいて、それも世間の猫よりは格別に強く、鼠を取るのもすぐれているという。
 そんな猫ばかり棲む島があるのなら、鼠ばかりの島もあっていいだろう。
あやしい古典文学 No.70