『諸国百物語』巻之三「加賀の国あを鬼の事」より

奥の部屋から鬼が出た

 その昔、加賀中納言前田利長の死去のときのことだ。

 加賀、越中、能登の三ヵ国の武士が残らず詰めている広間に、暮れ方、身の丈六メートルに及ぶ青鬼が、奥の間からぬっと現れた。
 鬼は、のさのさ歩いて広間から玄関に行き、表門をさして出ていった。

 三ヵ国の武士は歴戦の勇士ばかりであったが、ただ、
「あっ!」
と言うばかりで、鬼が玄関を出るとき、やっと腰の刀に手をかけたのである。
あやしい古典文学 No.74