橘南谿『北窓瑣談』巻之二より

毛の降る街角

 寛政五年七月十五日、江戸の町は小雨模様だった。
 雨に混じって毛が降ってきた。丸の内あたりはとりわけたくさん降ったという。
 大部分が白い毛で、長さは十五〜十八センチ。特に長いのは四十センチくらいあった。また、赤い色の毛もまれにあった。

 親しい人が拾って京都に送ってくれたのを見ると、馬の尾の太さの毛である。江戸じゅうに例外なく降ったというけれども、どんな獣の毛で、何万匹分の毛になるのだろう。
 たいへん不可解な事件である。
あやしい古典文学 No.78