伴蒿蹊『閑田耕筆』より

海亀の卵の意外な効能

 海亀は尾がふさふさした生き物である。私自身、播磨の高砂の沖で、水中にいるのを見たことがある。
 話によると、海亀は岸に上がって卵を産み、そのあとを体を使ってよく固めて、人に見つからないようにするらしい。
 人もまた畏れて、卵を採ることをしない。採ると祟りがあり、その年は漁に出ても魚を得ることができないのである。亀は竜王に次いで海中に勢力のあるものだそうだ。

 亀が卵を産んだ場所を目安にして、その年の波の高低を占うことができる。
 幼児などが、わけも知らずに卵を採るぶんには、祟りはない。その卵は、脱肛の治療の妙薬となる。
 味噌汁に入れて食べると、十センチを超える大脱肛も即座に腹内に収まって、あまりの効き目のすごさに、病人もただ驚くばかりである。
 その後は、時々痛むことはあっても、再発はないという。
あやしい古典文学 No.82