和田烏江『異説まちまち』巻之一より

象と虎が来た話

 太閤秀吉の治世のころであろうか、大阪に、象や虎が来たという。

 象は白象で、体長二十数メートル。丈も高くて、二階で見ても背中は見えなかった。
 鳶口みたいなものを象の体に打ちたてて、歩ませていた。その刃傷は、象が星を見れば癒るというのだった。

 虎は二頭いて、鎖につないで引いてきた。
 後に二頭とも越後の山に放されたが、そのために山中の獣が皆おびえて里に下り、村々は大変困ったという。

 やがて一頭は浪人の母親を襲って喰った。息子の浪人は、虎はまたやって来ると判断して待ち構え、窓からのぞいたところを鉄砲で撃ち殺した。
 もう一頭は行方知れずとなった。山中でほかの獣どもの逆襲にあって、殺されたのかもしれない。また、山づたいに他国へ去ったともいわれている。

 先の象のことかどうかわからないが、見物人の脇差を鼻で巻き取って呑み込んだ象が死んだという話を、幼いころに聞いたことがある。
あやしい古典文学 No.83