松浦静山『甲子夜話』巻之七十より

ウワバミを獲る法

 屋敷に召し使う少年に越中の者がいて、こんなことを話したという。

 越中に、白かい銀山駒が嶽、ならびに、おすもん山という山がある。この二つの山には多数の大渓谷があり、ふもとに大白川、平瀬という里がある。
 里人はみな猟師で、山に入って猿や鹿を獲って生活している。
 ところが時々、山に獲物がいなくなって、暮らしに困ることがある。そんなとき猟師は、
「山にウワバミが来た」
と言う。つまり猿や鹿が、ウワバミに喰われてしまったか、または恐れて逃げてしまったというのである。

 谷川の水辺の岸を調べると、はたして、ウワバミがいそうな岩穴がある。
 その岩穴に、連れてきた犬の餌を投げ込む。ふつう犬はすぐ穴に飛び込んで餌を喰うのだが、もし穴にウワバミがいると、なかなか入ろうとしない。とりわけ牝犬はしきりに吠えて、けっして入らない。
 こうしてウワバミがいるとわかると、漁師たちは岩穴の前に集まる。
 高い柵を造って上に何人かが登る。一方、穴の入口に杭を幾本も打ち込んで出られなくする。それから、篝火をたくさん用意し、トウガラシを篝火に加えて穴の中に投げ入れる。
 数人で煽いで煙を穴の奥に送ると、ウワバミは毒煙に咽せて外に出ようとする。ウワバミが動くときは、風が吹くような音がするので、柵の上の猟師は用意の薙刀を構えて待つのだ。
 ついにウワバミが現れて、杭を破って出ようとするのを、皆が槍でもって頭を刺す。ウワバミひるまず、首が杭の防壁から出たところを、薙刀をもった者が横なでに頭を斬り取るのである。

 ウワバミが全身を外に出してしまうと、尻尾を振るって人をなぎ倒し、その勢いは雷や稲妻に劣らないから、人は皆大けがしてしまう。だから、このように十分な備えをするのだという。

 ウワバミが山に来るのは一年に一度、あるいは三年に一度であるが、一年に二度ウワバミを獲ることもある。
 少年も見たことがあり、頭が平たくて大きく、蛇とは異なっていたという。耳があるが、ごく小さい。体長は三メートルにあまり、胴回りは一メートル近くあった。それで小さいウワバミらしい。
 その肉は食べることができる。少年も食べたところ、うまいことこの上なかったそうだ。
 ただし、味噌に漬けて三年たってから食べないといけない。一年たった程度のものだと毒があって、頭がのぼせる病気に罹ってしまう。
あやしい古典文学 No.95