橘南谿『北窓瑣談』巻之二より

雷の毒

 安永のころ、私は伏見に住んでいた。
 ある年、雷がことのほか多く起こり、あちこちに落雷したが、その一つにこんな話がある。

 豊後橋の南の畑の中に、刈った稲をしまっておく小屋があって、そこに耕作の者十人あまりが雷雨を避けていたところ、不運にも小屋を雷が直撃し、人々の真ん中を雷電が貫いた。
 雷に打たれた者数人は手足が折れ、腹が破れて即死。
 他の者も大部分が気絶したが、何事もなかった人がひとりだけいて、気絶した者を介抱して連れ帰り、薬を与えて休ませたところ、みな平癒した。

 ところが二ヵ月ほど過ぎて、急に悪寒発熱し、一両日のうちに全員死んでしまった。雷の毒があらわれたのである。
 その経緯は狂犬の毒があらわれるのに似て、日を経ておこり、死にいたった。不思議なことといえよう。
あやしい古典文学 No.96