松浦静山『甲子夜話』巻之二十六より

先頭はつらいぞ

 ある人の話に、佐渡島から越後の地に、年に一度か二度、鹿が海を渡ることがあるという。
 その様子はというと、先頭を泳ぐ一頭の鹿は浮かびようが少なく、ただ頭と背だけが見える。それに続く鹿は、それぞれ顎を前の鹿の尻に乗せて、楽をして浮かんでいる。

 このようにして数十頭の鹿が連なって泳ぐので、遠目には、巨大な竜が海を行くかと思われるのだという。
あやしい古典文学 No.98