神谷養勇軒『新著聞集』第七「死に望て睡に熟し肝臓に毛を生ず」より

ツワモノの肝臓

 蒲生下野守の家来である武士が、わけあって切腹することになった。

 まず行水を済ませると、検使に向かって、
「わしは、湯上がりには一眠りする習慣だ。この世の思い出に寝させてくれよ」
と言い、高イビキをかいて寝てしまった。

 じゅうぶんに寝て目を覚まし、起き上がるとまた検使に向かって、
「強者(つわもの)の肝には毛が生えていると、昔から言う。それが本当なら、おそらくわしの肝にも毛が生えているはずだ。必ず確かめてみてくれ」
 そう頼んで腹を切った。

 約束にしたがって皆、近寄って肝臓を見ると、なるほど、たしかに毛が生えていたそうだ。
あやしい古典文学 No.108