神谷養勇軒『新著聞集』第十「祖母孫をくらふ」より

孫の手

 上州厩橋から二里ばかり離れた大胡村の名主、大塚七之助という者の母は、七十歳あまりであった。
 三歳になる孫を、昼となく夜となく抱いて可愛がっていたが、ある晩、
「わたしは孫を喰ってしまった。ほら、手だけ残っているよ」
と言って、血まみれの孫の手を七之助に見せた。

 七之助は愕然とし、とにもかくにも母親をとらえて座敷牢に入れたという。
あやしい古典文学 No.110