HOME | 古典 MENU |
『宇治拾遺物語』巻第十二「穀断聖、不実露顕事」より |
糞は嘘つかない |
「穀断ちの聖(ひじり)」といって、米、麦、黍、粟、豆の五種類の穀物を永年断って修行している上人がいた。天皇から内裏南の神泉苑に住まいを与えられ、たいそう尊い待遇を受けていた。 この上人は木の葉だけを食べるという。 もの好きな若い公家たちが集まって、その真偽を確かめようということになった。 上人に会ってみると、なるほど、いかにも尊げな様子である。 「穀断ちを始めて、何年ほどになりますか」 と尋ねると、 「若いころからずっと断っていますから、五十年以上になるでしょう」 とすましている。 後日のこと、一人の公家がこんなことを言った。 「穀断ちすると、どんな糞が出るんだろう。普通の糞とどう違うか、行って見てこようぜ」 そこで、二三人が連れ立って行って調べると、未消化の穀物をたくさん含んだ糞が見つかった。 おかしいではないか、ということになって、上人が出かけた隙に、 「床下を調べるのだ」 と、畳をめくって見ると、土を少し掘って、布袋に米を入れたのが置いてある。公家たちは手を叩いて大喜びした。 以来、上人を見かけるたびに「穀糞の聖! 穀糞の聖!」と、さかんにはやしたてた。 上人は居たたまれず、逃亡して長らく行方不明となった。 |
あやしい古典文学 No.119 |
座敷浪人の壺蔵 | あやしい古典の壺 |