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東随舎『古今雑談思出草紙』巻之九「非情、有情に変ずる事」より |
飛騨の笹魚 |
飛騨の国の平湯山というところは、同国の里人も行くことがまれな僻地である。峰々を木立が覆い、深い谷には岸といい岩といい、おびただしい熊笹が生い繁っている。 毎年、旧暦九月ごろから雪が降りだす。雪は何メートルと知れず積もって谷を埋めつくし、水音を聞くこともできなくなる。 四月になってようやく雪が解けだしたとき、熊笹の節に、筆ほどの太さのタケノコ状のものが生じていることがある。根元と先端が細く、真ん中が膨らんでいる。 これを「笹魚」という。 雪が解けてしまうと、笹魚は谷水に浸り、笹の節を離れて泳ぎ回るようになる。その形はヤマメに似ていて、「岩魚」と呼ばれ、たいそう美味いらしい。 この魚がまだ笹についたまま尾ひれを動かしているのを、見た人もあるという。 このことは以前から話に聞いていたが、先だって実際に、魚の形が笹の節に生じた状態で伐りとられ、日数をへて枯れて乾燥したのを、この目で見た。 このように非情が有情に変化するという説には、山の芋がウナギになるというのもあって、根も葉もないことだとばかり思っていた。 ところが先年、常陸の国に出かけた際、筑波山の麓の川岸で掘り出したという、半ばウナギと化している芋を見た。 もはや疑う余地はなかった。 |
あやしい古典文学 No.121 |
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