神谷養勇軒『新著聞集』第十「病床に猫来る」より

病床に猫来たる

 江戸中橋牧町、中島五兵衛という者のところでの出来事である。

 召し使っていた五十歳あまりの下女が重病になったとき、どこからともなく老いぼれた猫がやってきて、枕元に寄り添ってすわった。
 人々が不吉に思って、叩いて追い払おうとしても、どうしてもその場を離れなかったが、病人が死ぬとともに姿を消してしまった。
あやしい古典文学 No.122