HOME | 古典 MENU |
菊岡沾凉『諸国里人談』巻之一「人魚」より |
若狭の人魚 |
若狭の国、大飯郡の御浅嶽は魔所と畏れられ、八合目より上には登らない。そこの御浅明神の使者は人魚であると言い伝えられている。 宝永年間のこと、乙見村の漁師が漁に出て、変なものが岩の上に寝ているのを見た。 頭部は人間だが、首廻りに鶏冠みたいなヒラヒラした赤い物が巻いていて、そこから下の身体は魚だった。漁師はそいつを、深い考えもなく手にした櫂でぶん殴った。 一撃で死んでしまったので、死骸を海に投げ入れて帰ったが、それから大風が起こって、海鳴りは七日間にわたってやまない。 三十日ばかり過ぎて大地震が起こり、御浅嶽の麓から海辺まで地面が裂けて、乙見村まるごと地中に呑み込まれた。 明神の祟りだという。 |
あやしい古典文学 No.132 |
座敷浪人の壺蔵 | あやしい古典の壺 |