橘南谿『北窓瑣談』後編巻之一より

猫の屍骸を喰う獣

 安永年間のこと、山城の国の八幡あたりの野に、猫の死んだのを喰う獣がいた。
 大きな獣ではなく、だいたい猫くらいの大きさだが、猫とはちがう。犬でもない。
 土地の者が近づいても、人を恐れる様子はなかった。
 猫を喰い終わると淀の方角に向かい、途中、たくさんの犬の群れと行き会った。犬どもは獣に襲いかかったが、逆に獣のひと咬みで皆即死した。

 人の言うには、「シイ」という獣ではないかということである。
 わが家の下僕の貞助が八幡の生まれで、このことを見たそうだ。
あやしい古典文学 No.136