高古堂『新説百物語』巻之五「神木を切りてふしぎの事」より

はたらく亡者

 丹後の国のある村でのこと。
 その村の社には神官がおらず、村で老婆を一人雇って守りをさせていた。

 村の有力者で気の強い者がいて、自分の屋敷を普請するために、
「神社の前の大木を切って使いたい」
と言いだし、
「あの木は、いつのころからとも知れぬほど古い木じゃ。切って、もしも祟りなどあったらおおごと……」
と、老婆がとめるのもかまわず、あっさりと木を切り倒して、無事に屋敷の普請を終えた。
「祟りのあるなしは、人によるのさ」
と大口をたたいていたが、二月もしないうちに患いだした。
 そのうち、意識も朦朧として譫言を吐くようになり、まもなく死んでしまった。

 死骸を沐浴して棺に入れ、僧を頼んで番に付けておいたが、この亡者は厄介だった。
 夜中に何度となく棺から這い出て、付木(つけぎ)に火をともし、そこらを見回る。かと思うと、箒を持って座敷を掃除してまわる。
「とにかく早く葬ってしまおう」
ということになって、親戚一同に知らせて、翌朝葬式をとり行った。

 葬列が屋敷を出るやいなや、ものすごい雷鳴。閃光おびただしく、目も開けられない。やっとのことで埋めて帰った。
 その村の人が語ったことである。
あやしい古典文学 No.138