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佐藤成裕『中陵漫録』巻之九「大坂の赤蟹」より |
地変、天変、海変 |
明和の初め、大阪の川水が、ある日突然ことごとく真っ赤になった。 人々はあやしんだが、仕方がないのでその水で飯を炊いた。炊いた飯も赤くなった。 虫眼鏡でよく見ると、微細な赤蟹がいっぱいであった。そのせいで、大河の水が真っ赤に見えたのである。 この蟹の変事は何が原因なのだろうか。 こういうのは地変というべきだろう。 先年、遠州の海岸に鴨が数百羽、空中から降るように落ちてきたことがあった。たいがいは死んでいたが、半死半生のも混じっていた。 気味が悪いので、取って食う者はいなかった。 原因を調べるに、そのとき空に多少雷鳴がしていたという。つまり、跳んでいた鴨の群れを雷が直撃したのだ。大木に落雷するのと、理屈は同じである。 これは天変というべきである。 また、奥州赤前村の海岸に、死んだ鯨が百三十九頭、三日間にわたって漂着した。 調べてみると、鯨の腹にはみな傷跡があった。何ものかに襲われたのである。 鯨を襲うのは「しゃち」「べんふぐ」「たち」の三種しかいない。しかし、こんなに多数の鯨がやられたのは、それらのせいとは考えられない。 しいていえば、海変というしかないだろう。 |
あやしい古典文学 No.144 |
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