『徒然草』第百五十二段より、「なんて尊い…」

兼好法師『徒然草』第百五十二段「西大寺静然上人」より

なんて尊い…

　西大寺の長老、静然上人が、宮廷に参られた。
　腰が曲がって眉が白く、まことに高徳の僧らしい上人の姿に、内大臣の西園寺実衡は、
「ああ、なんて尊いんでしょうっ！」
と感嘆して、すっかり信仰した様子であった。
　それを見た日野資朝が、実衡に言った。
「あれは年をとっているからですよ」

　後日、資朝は、よぼよぼに老いて毛も禿げたムク犬を下人に引かせて内大臣邸を訪れ、
「この犬、いかにも尊く見えますので」
と、内大臣に進上したそうだ。

あやしい古典文学 No.156

座敷浪人の壺蔵

あやしい古典の壺