『古今著聞集』巻第十七「承安元年七月伊豆國奥島に鬼の船着く事」より

奥島に来た鬼

 承安元年の七月八日、伊豆の国奥島の浜に一艘の船が漂着した。

 暴風に遭ったのだろうと、島民たちが様子を見に行くと、陸地から百メートルほどのところで、船を縄で海底の石につなぎ、鬼が八人、泳いで岸にやってきた。
 粟酒や食べ物を与えると、飲み食いすること、馬のようであった。
 鬼どもはものを言わない。身長二メートル半前後、髪は夜叉のごとく、目はまるくて猿の目のようだ。みな裸で、わすかに蒲を編んだものを腰に巻いているだけ。赤黒い肌に、いろいろな模様をくっきりと入墨している。それぞれ二メートルばかりの杖を持っていた。

 そのうち、島民の一人の持っている弓矢を欲しがった。
 断ると、鬼どもは豹変し、にわかに鬨の声をあげて襲撃してきた。杖をふるって、まず弓矢を持った者を一撃に打ち殺した。そのほか打たれた者九人のうち、五人までが即死した。
 さらに鬼は、体から火を発して暴れ回った。このままでは島じゅう皆殺しかと思われたが、神物の弓矢を持ちだして立ち向かったところ、退却して海に入り、船は風に向かって走り去った。

 その年の十月十四日、この事件を報告書に記し、鬼の落とした帯とともに国司に届け出た。
 帯は、蓮花王院の宝蔵に収められたということだ。
あやしい古典文学 No.165